隠しててごめんね

「ほんとうは私、「なつみ」じゃなくて「ふゆか」って名前なの」
 
 
 
 
 
彼女は突然僕に打ち明けた。時は令和、新宿東口のJR改札で僕は彼女を見送るところだった。
 
 
 
「夏じゃなくて冬なんかい!真反対やないか!」
 
 
 
突然流れた不穏な空気が嫌で僕はおちゃらけてつっこんだ。しかし、彼女の顔色を覗いてみると、和みなんて1ミリも無さそうに彼女は真顔で僕の目を見つめてた。
 
 
 
 
 
彼女との出会いはマッチングアプリ。僕の院試が終わり大学院への入学も決まったので、暇つぶしというか寂しかったからというか、とにかく軽い気持ちで3年ぶりにマッチングアプリに手を出していた。そこで出会ったのが「なつみ」だった。
 
 
なつみはアプリ上でたくさんのいいね!を貰っており、プロフィールの写真も横顔だったけれど可愛かったし、とても人気の女性だった。僕はダメ元でなつみにアプローチしてみた。すると、なんとOKが出て今日こうして会ってるわけだ。
 
 
 
冒頭のカミングアウトはつまり、「なつみ」はあくまでマッチングアプリ上でのペンネームで、本当の名前は「ふゆか」であるというわけだ。別によくあることだし、何も不思議じゃないが、なぜかなんとも言えない不気味な空気感を彼女は漂わせていた。
 
 
 
実を言うと、実際会ってみた「なつみ」は正直あまり僕のタイプではなかった。アプリ上では普通に楽しくやり取りしてたのだが、いざ会ってみるとあまり目を合わせてくれないし、というかこっちを見てくれない。
 
話をしててもノリ良く返してくれるわけでもなく、じゃあ何か話を聞き出そうと思ってもだんまりで。特に自分の話は本当にしてくれなかった。ガードが固すぎる子なのかな?とも思ったが、少し変だったし残念だった。
 
 
 
 
 
こういった女子は出会い系アプリでは珍しい。だいたいの子は表面上だけでも少しは取り繕おうとしてくれる。だから、僕といても楽しくないのかなと悲しくなったし、そしたら僕もあまり楽しくなくなった。もちろん、僕の実力不足かもしれないし、僕の現実のビジュアルにがっかりしただけかもしれないが、、、
 
 
 
 
そんな事を考えながらなつみを駅まで送っている最中にこの冒頭のよくわからないカミングアウトをされたわけだ。正直そんなカミングアウトなんてどうでもよかったし、場を盛り上げようと試みた僕のツッコミもスルーされたし、速く彼女をJR改札に見送って帰りたかった。
 
 
 
「今日はありがとう、俺は京王線だからここでばいばいするね」
 
 
 
と伝えた。しかし、彼女はなかなか帰ろうとしないどころか、もじもじしながら、しかし、何か言いたそうな目でこっちを見つめてくる。今更なんだよっと少し苛立ちを覚えた僕は、
 
 
 
「じゃっ!」
 
と↓の写真のような敬礼をしながら半ば無理やり彼女を改札の向こうへ見送った。
 

smiling man making hand salute

 
 
 
その瞬間、その敬礼の動作と同時に僕は全てを思い出した。まるでタイムスリップしたかのように、走馬灯を見ているかのように、全部の要素が頭の中で繋がった。繋がってしまった…!僕はこの子と会ったことがある。
 
 
 
全部思い出した僕は改札を通った彼女に背を向け足早にその場を去って帰路に着いた。彼女が後ろで何かを言ってる気がするが、構わずその場を去る。
そして、じぶんのLINEの友達欄にいるはずの「彼女」を血眼で探した。
 
 
 
 
 
 
〜〜〜〜〜3年前〜〜〜〜〜
 
 
 
時は平成、入学したての大学にも慣れて新しい出会いも落ち着いた頃、マッチングアプリに人生初めて手を出してみた。右も左も分からなかった僕はとりあえず色んな人にアプリ上でラブコールを送りまくった。その時出会ったのが彼女「ふゆか」だったのである。
 
 
 
 
 
ふゆかとは普通に食事を楽しんだ。正直顔はそこまでタイプじゃなかったし(むしろ可愛いといった感じではなかった)、性格や趣味が合った!といったわけでも無かったが、彼女の話をうんうんと相槌を打ちながら聞くだけで、女の子と食事なんて行ったことも無かった僕にはとても楽しかった。
 
 
 
 
 
しかし、ふゆかとの食事が楽しかったとはいえ彼女は全体的にあまり僕のタイプではなかったし、まだ自分がうぶなのもあってホテルに行こうという気分にはならなかった。そろそろ帰りたいなと思い、「俺明日朝早いから帰るね。改札まで見送るよ」と彼女をJRの改札まで見送ろうとした。
 
 
 
 
 
しかし、彼女はなかなか帰ろうとしない。それどころか、「もう少し一緒にいたい」「京王線からでも帰れるから、私も一緒に乗る」と捲し立ててくる。
 
 
 
その後、彼女の家の方面のJR改札に着いてもなかなか中に入ろうとしないふゆかに向かってしびれを切らした僕は、
 
 
 
「じゃっ!」
 
と、↓の写真のような敬礼をしながら半ば無理やり彼女を改札の向こうへ見送った。そう、僕は3年前も同じことをしたし、この動作が記憶の糸を辿るトリガーとなったのだ。頭では忘れていても身体は覚えていた。

smiling man making hand salute

 
 
 
 
 
その後ふゆかからのLINEが鬼のように来た。やばかった。「優しく話を聞いてくれたのはあなただけ」、「好きになったかもしれない」、「もう一度だけ会ってほしい」、「寂しい」…..e.t.c もちろん電話も何回か来た。1回電話に出てみると彼女は泣きながらもう会ってくれないの?と訴えた。最初の頃は少しLINEに返事もしてたが途中から怖くなってしまい僕はふゆかをブロックしてしまった。
 
 
 
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(そうだ、彼女のLINEはブロックしてしまっていたんだった。)
 
 
 
 
 
そう気づいた僕はブロックリストを開いた
 
 
 
(しかし、3年前とは言え気づかないものか?確かにあまりこっちを見なかったきがしたけれど、目元とかは別人のようだったはずだ、、、メイクか??それとも、もしかして整、、、そういえば、声は、、、そうか、今日はあの子あんまし自分から話してない、、、)
 
 
 
 
 
嫌な予感がどんどん大きく膨らんでいき、そして僕は彼女のLINEアカウントを見つけた
 
 
 
 
 
名前はやはり「冬香」。同じ名前だ。いや、しかしたまたまという事も、、、まだ同一人物とは決まっていない。そう思いながらふと彼女のプロフィールにある「ひとこと」を見てみた
 
 
 
 
 
すると、、、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
見つけてくれて嬉しかった、今度は私が会いに行くね
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