夢を見るために

昔、ある女の子が僕を好いていた。まだ僕が学ランに身を包んんでいた時代で、恋とか愛とかってのはお酒やタバコと同じ未知で魅力的な何かと同列だった。

 

引退試合の前々日の課外授業の時に、宮島の海岸で彼女は僕にネックレスをくれた。イヤホンの延長コードのオスとメスをそのまま刺して輪っか状にしただけのもの。「これを着けて、痩せるよ」と笑いながら、少し背伸びしてヒョイっと首にかけてくれた。

 

卒業後、僕(浪人)と彼女(大学生)は上京して、一緒に映画を見て、音楽を聴いて、ライブに行って、ご飯を食べた。お互いの好きなものの話をして、センスをぶつけ合って、人の作り出す美しさを語り合った。

 

曖昧だけど心地良い関係を数年続けたのち、僕は田舎の大学に進学して、お酒を飲んで、タバコの不味さを知って、性欲と恋と愛が曖昧かもしれない事を知った。

 

そんなおり、1年ぶりに彼女から連絡がきた。

 

初めての彼氏との子供ができた。結婚をするから大学を辞めることになった

 

そう電話が来たとき、喪失の実感がなく、そしておめでとうも言えなかった。ただ、「大丈夫?」と見当違いな言葉しか出てこなかった。

 

おめでとう、幸せを願ってると言えたのはもう少し後になってからだった。

 

少し前、断捨離をしてたら高校部活引退の時にもらったアルバムがでてきた。そこにはクラスメートや後輩からのメッセージがたくさん載っていた。もちろん彼女のも。彼女とその友達3人からそれぞれメッセージが載っており、その全てが最後に「ずっと、好きでした…笑」という言葉が添えてあった。

 

人の考えることは自分のことだってわかりやしない。自分をとりまく現状なんてなおさら。成長はしたい時にしてくれない。

 

彼女と歩いた新宿の深夜、そこにあった明かり全てに名前を付けて覚えておけばよかった。

 

 

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